2025/09/28 21:07


「コーヒーの見本市」

2025/9/24–9/27、SCAJ2025の COFFEE VILLAGE に出店してきました。

SCAJは Specialty Coffee Association of Japan の略で、日本スペシャルティコーヒー協会が主催する、年1回のコーヒーに特化したBtoBの展示会です。BtoBですから本来は、私たちのようなコーヒー関係者が、最新の機械・抽出器具・ビジネスの情報を見に行く場です。

近年、この展示会でも一般の来場者が目に見えて増えています。純粋にコーヒーが好きな方々が多く訪れ、会場づくりも変化しています。エスプレッソマシンのブランドブースでは世界大会クラスのバリスタがラテをふるまい、YouTubeやメディアで人気のコーヒー店を招いてサイン会が行われるなど、一般の方にも届く企画が増えました。

その流れの中で、全国のロースターを招いて試飲と豆の販売を行うエリアが整備されました。
これが、私たちが出店した COFFEE VILLAGE です。




「蒼は何しに出店を?」

もともとはB2Bの展示会ですが、ここ数年、一般の来場者がはっきり増えています。そして、そんな状況の中、私自身も2〜3年前から「蒼もここでできる自分たちならではの役割はないのか」と考えるようになりました。というのも、初めて来た方が、その専門性・マニアックさ・情報の渦にのまれて疲れてしまう姿を多く見かけるからです。

「コーヒーの祭典に行ったけど、なんだかすごかった...」

よく聞く言葉です。

そもそもが業界向けの専門の見本市ですから、一般の方の方からすれば、コーヒーに関わる情報が膨大過ぎて、華やかすぎて、
その「なんか」が「なんか」のまま、
コーヒーの世界の入口に立った人が置いてけぼり感を感じてしまう。

10年以上前、私がこの場を初めて訪れたときも、まさにそうでした。

だからこそ、同じような人はきっといっぱいいる。
そして、そういう置いてけぼり感を感じている人の受け皿になりたいなと、そう思いました。


一般の来場者さんが増えているこの状況で、

そういう「役割」なら、私たちにはこの COFFEE VILLAGE でできることがあると、そう考えたのです。




「蒼のらしい「役割」とは何か?」

私たちは普段から移動販売車で各地を巡っています。
奥三河の道の駅や地域の公園では、いわゆる「スペシャルティコーヒー」に敏感な方ばかりではありません。むしろ少ないくらいです。専門店の重々しい扉を開ける覚悟や、コーヒーを飲むぞ!とスイッチを入れずとも、
「ちょっとコーヒー一杯ちょうだいな」と気軽に立ち寄れる―それが移動販売です。
そんな移動販売の敷居の低いスタイルの出店場所でも、私たちは時にエスメラルダ・ゲイシャやCOE(Cup of Excellence)といった、トップクラスのスペシャルティコーヒーを提供しています。
そして日常的に、コーヒーの入口に立った人たちと、どのお店よりも多く向き合ってきたと自負があります。

だからこそ、入口に立った人を置いてけぼりにしない方法を、長年の経験で知っているつもりです。
たとえば「ちょっと体験」や「敷居の低さ」の設計とかね。

昨年、初めて COFFEE VILLAGE に出店した際は、500円の小口パックを30ロット超並べることに挑戦しました。
豆はトップクオリティから手の届きやすいものまで、焙煎度は浅煎りから深煎りまで幅広く。多くのブースが「極端に個性の強い豆」「希少性」「有名バリスタのゲスト抽出」「競技会の実績」など特化型の見せ方を採るなかで、蒼はその逆、広く浅く「特化しない型」を徹底しました。


手に取りやすいよう、専用の豆袋デザインとイラスト、一言コメントを用意し、1,500枚以上を自前プリンターで印刷、パッケージング、パッキングへ。作業は膨大でした。役割分担は、豆の情報作成=私、情報整理=妻、焙煎=こうき、印刷・パッケージング=野口。異様なほど大変な準備。。


そして今年。
どうしようかと考えた結果、
私はあえて同じことをやると決めました。


それがお客様のためだと思ったからです。
昨年立ち寄ってくださった方が「今年は何があるかな」と楽しみにしているかもしれない。
昨年は素通りでも、今年は寄ってくださるかもしれない。
何より、昨年の出店形態に確かな手応えがあったから。

やり方を安易に変えない―これもまた、お客様に寄り添う方法のひとつだと考えています。


そして、置いてけぼりを、ひとりでも救うこと。


それこそが、このビックサイトでの出店における蒼の「役割」だと、私は勝手に決めました。


その「役割」を全うした4日間。
結果は昨年に増して盛況でした。

特に一般の方の割合が非常に増える土曜日の最終日は特に盛況でした。

お立ち寄りいただいた皆さま、本当にありがとうございます。




「そして本題  - 思うこと- 」

SCAJという場に身を置くと、出店してもしなくても、私はいつも打ちのめされます。
理由は単純で、業界はどんどん先へ進むからです。
B2BのメインのSCAJ会場では、私たちが現場で積み上げてきた淹れ方や運用を、さらに精密に・さらに再現よくしてしまう機器や方法が次々に登場します。
10年以上この世界に従事している身から見ても奥が深く、「自分はついていけるのだろうか」と不安になる瞬間がある。
自分という存在がちっぽけに感じて、同時に「もっと勉強しなきゃ」と背筋が伸びる。
落胆と緊張、毎年、その繰り返しです。


COFFEE VILLAGE でもニュアンスは違いますが、似た気持ちになります。焙煎大会の優勝歴を掲げるお店、独自の買付で専用ロットを並べるお店、業界内で不動の知名度を持つお店。並べば、どうしても比べてしまう。うちは全国区の知名度も、誰もが一目でわかる実績もない。そう思うと、心がざわつきます。
だからこそ、自分を大きく見せたくなる。それが私の中にもある感情です。

でも結局のところ、大切にしたいのはそこではありません。
知名度が小さくても、過度に背伸びをせず、いま自分たちにできることを謙虚に、確実に提供する。
それが蒼のやり方だと思っています。
極端に言えば、わざわざ東京に出ず、
地元で地に足をつけて日々の営業に集中する選択だって、
まっとうな選択の一つかもとも思っています。
それでも私たちがこの全国の場に身を置いてチャレンジするのは、
このブログを読んでくださる皆さん=いつものお客様の顔が浮かぶからです。


業界内や全国での知名度を上げたい気持ちがゼロではありません。ただ、動機の中心はそこではありません。
「蒼が東京の大きな展示会に出て、何かを持ち帰ってくる」―この事実が、少しでも地元のお客様の喜びや安心につながるなら、それで十分価値がある。会場で得た新たな気づきを店の一杯に還元すること。
そんなきっかけが一年に一回くらいあってもいいかな、そう思っています。
新しい要素を、日常の温度で受け止めやすい形に翻訳してお渡しすること。私たちがここに出る理由は、そのためです。


そして、はじめて蒼を知ってこのブログに辿り着いた方へ。
出会いのあとでがっかりさせない店でありたい。敷居は低く、クオリティは高みを。
世界一敷居の低い専門店として、まずは小さく試して、家で落ち着いて確かめて、よかったら次の一歩へ。

華やかな場所で背伸びの一杯を誇示するより、日常の一杯で「ほっとする」を積み重ねる。

その役割を、これからも着々と続けていきます。