2025/10/23 16:27


「代替品から選択肢の一つへ」

ここ最近、カフェインを控えたいというお客様が体感として増えている気がします。
そして同時に、その理由の幅も広がっているように感じます。

眠れなくなるのを避けたい夜。
胃の調子を見ながら過ごす日。
妊娠や授乳、薬の服用、勤務時間のずれ。
あるいは「今日は軽くしておきたい」という、ちょっとした気分の日。

どれも特別な事情ではなく、日常の中で自分のペースを保つための普通の選択です。
カフェインをそこまで意識していない方でも、気軽に控えるという習慣が少しずつ広がっているように思います。

つまりデカフェは、コーヒーが好きな人にとっても「コーヒーを楽しむための一つの選択肢」になってきました。

以前の私自身も、デカフェは「カフェインが摂れない人のための代替品」という印象を持っていました。
けれど今は少し違います。

夜だけデカフェにする。
二杯目を軽くする。
体調や予定に合わせて飲み分ける。

たとえば普段のコーヒーでも、「今日はミルクを入れてみようかな」と思う日があります。
あの感覚と同じように、「今日はデカフェにしてみようかな」と自然に思える。
そんな時代になってきていると感じます。

だからこそ、デカフェにも他の豆と同じように、味としての納得感が必要です。
私たちロースターの役目は、その普通になりつつある選択肢に対して、きちんと応えられる品質を用意しておくことだと思っています。
「デカフェでも、いつものコーヒーと同じようにおいしい」。
その当たり前を、ちゃんと形にしておきたいと考えています。



「丁寧なデカフェ処理とは?」

今回ご紹介する ETHIOPIA DECAF SIDAMO G-2 は、メキシコのDescamex社が行う Mountain Water Process(MWP)という方法でカフェインを取り除いています。

薬品を一切使わず、メキシコ最高峰ピコ・デ・オリサバ山の伏流水を使用します。
生豆を軽く蒸らした後、カフェインだけを抜き取ったコーヒー液(CGE:Coffee Green Extract)にゆっくり浸します。
この液体は、同じコーヒー豆からあらかじめ味や香りの成分を抽出した水で、豆と水の間に味の差が生まれないようにするためのものです。
この液に浸すことで、豆の中のカフェインだけが外に出て、香りや甘みの成分はそのまま残ります。

全部を抜き取ってあとから戻すのではなく、カフェインだけを静かに抜き取るという考え方です。

今回この豆を扱うにあたって、私自身も改めて「デカフェがどのように作られているのか」を学び直しました。
いかにゆっくりと、丁寧にカフェインを抜くかが鍵になります。
効率を優先して急げば、ほかの風味成分まで抜けてしまい、味が平板になってしまう。
速さよりも、風味を壊さずに守ることを優先する、とても誠実なプロセスだと感じました。










「浅煎りが成立する理由」

多くのデカフェは深煎りで仕上げられています。
深く焼くことでロースト香が前に出て、香りの弱さやムラを感じにくくできるからです。

一方で、このエチオピア・シダモは違います。
本来のシダモらしく、華やかで爽やか、紅茶を思わせるような明るいフレーバーを持っています。
その個性を生かすためには、浅煎りが最も自然です。

MWPによる処理で豆の細胞構造がしっかり保たれているため、浅煎りでも破綻せず、香りの輪郭がきれいに出ます。
火を入れすぎず、豆本来の明るさと甘みを引き出す。

浅煎りのデカフェは今でも珍しく、浅煎りの風味に慣れている方にとっては「ようやくいつものように飲めるデカフェ」になると思います。




「味わいの印象」

カップを口に近づけると、華やかでやわらかな香りを感じます。
ほのかにジャスミンを思わせる印象を受ける方もいるかもしれません。
口に含むと、レモンや白ブドウのような明るい酸がすっと広がり、温度が下がるにつれて、砂糖きびのようなやさしい甘さが残ります。

浅煎りらしい明るさと、デカフェらしからぬ透明感があります。
飲み終えたあとに残る軽やかな余韻も心地よく、デカフェであることを意識せずに楽しめる自然さがあります。

浅煎りが苦手な方も、アメリカンのように少し薄めに淹れて軽く飲むと、そのやわらかさを楽しめると思います。
浅煎りならではの軽やかさが、デカフェの印象をやさしく変えてくれるはずです。



「どんな時におすすめか」

夜の読書の前に。
仕事の合間の一息に。
食後の「もう一杯」を軽く楽しみたい時に。
体調や気分に合わせて、カフェインを気にせず香りを楽しみたい時に。

ちなみに私なら、夜に心を静めたいけれど、お酒も控えたい、カフェインも控えたい、ハーブティーの気分でもない。
そんな時の一杯として、このデカフェを選びます。



はじめての方へ

いつもの浅煎りと同じように淹れていただけます。
お湯の温度は90〜92℃、粉の量は10〜12g。
中挽きで2分半前後が目安です。香りと軽やかさがきれいに出ます。

アメリカンのように軽く飲みたい時は、少し濃いめに150mlで落とし、最後にお湯を30〜50ml足すと、やさしい口当たりになります。

また、いつもの豆に3〜5割ほど混ぜて使う方法もおすすめです。
昼は通常、夜はハーフ、就寝前はデカフェ100%。
一日のリズムに合わせて、コーヒーを設計するようにお楽しみください。



最後に

増えているのは、デカフェを飲む人というより、デカフェを選ぶ理由です。
だから私たちは、デカフェを特別扱いせず、他の豆と同じ基準で「おいしい」と感じられる味をつくることを大切にしています。

ETHIOPIA DECAF SIDAMO G-2(MWP)。
浅煎りでも香りがしっかり立ち、澄んだ印象とやさしい甘さが残るデカフェです。

深煎りのしっかりした味わいも良いものですが、華やかさのある浅煎りのデカフェを試してみたい方に、ぜひ一度飲んでいただきたいと思います。

夜にも、二杯目にも、軽く飲みたい時にも。
“仕方なく”ではなく、“いつものように選べるデカフェ”を。
その一杯をご提案します。

— 倉橋 誠